壊れた星屑は嘘を紡ぐ
ぺろり、ぺちゃり、
耳元で聞こえる不愉快な水の音
蛇が全身をくねらせて、這うような不快音
なにかが、這い上がってくるという恐怖音
すぐそこで、自分の目の前で、息を殺して獲物を喰う、あの・・・目で・・・
「……あ、ぁー」
両手をつなぐ手錠はがしゃがしゃと乾いた音をたてて、揺れるだけでちぎれそうな気配もなかった。
声が乾き、なにも言えないはずの来須の唇からは呪詛のような怨念のつまった声が漏れる。
「……動かないでくださいよ」
数メートル先で西島が音に反応し、振り返った。
密室、施錠された部屋はふたり息とダクトからの風の音しか聞こえてこない。
唸るように身じろぐ来須は失いかけた目の光りに西島を映す。
あの日通りの西島が、いる。
「に・・し、」
「課長、動いたら痣が濃くなっちゃいますよ?」
「うーうー……・ぎ・・」
首には、鎖と赤いランプのついた首輪がある。
動けば爆発するとでも、言うのか?
来須は西島をまた睨み付けた。正気を失いかけた目つきで、それはどうなのかと言うが…来須にできるのはこれだけしかなかった。
「…なんだか暑くなりましたね」
「………」
この密室は暑い。
閉め切ってあるうえに唯一の通気口は、真上のダクトだけだからだ。
汗が来須のほおを伝い落ちていく。
西島がスッと真横から現れた。
「課長、」
「……」
いつもよりその表情がはっきりと見える。
狂っているような、正気はあるはずの眼光が西島の目から感じ取れた。
来須は目をそらす。この目を、見続ければ……自分もきっと、理性を失ってしまうだろう……
ひんやりと冷たい空気が流れてきた。
来須はおそるおそる横に視線をずらすと、西島がアイスキャンディのような棒についたモノを持ち立っていた。
ドライアイスが白く漂っている。
これだけでも、暑さが緩和できるくらいにひんやりとしていた。
「……課長、アイス、食べましょう」
「……」
そう言って西島はアイスキャンディをぺろりと自分の舌で舐めた。
固まっていたアイスがとけて、床におちる。
唾液がアイスと西島の舌をつないでいた。ふふ、と笑う。
「……どうぞ、食べてください」
「……ん、」
ぴちゃ、ぴちゃ・・・
アイスキャンディから液体が滴り落ちていく。
来須は舌だけを使い器用にそのアイスをなめていく…それでも室内の温度で、舐めるよりもはやくそのアイスは溶けていってしまった。
来須の腿にアイスの液体がおちていく。
「…あーあー、課長ってば大人げないですよ」
「…んー、うるさい」
暑い、あつい、あつい、アツイ、あ、
アイスはやがて液体となり、来須の素肌に貼り付いて流れ落ちていった。
西島は来須の肌に顔を近づけると、舌をつかい、その残ったアイスの一部を舐めていく。
「……」
「西島・・」
ぴちゃ、ぴちゃ、
まるで蛇が身体をくねらせて、這うように、這い上がってくるように、来須の身体を西島の熱い舌先が這いずり回っていく。その緩い熱に来須は快楽を、忘れていた快楽を思い出していた。
下半身で異常な熱が、出現する。
「ふふ、課長、もっと……暑くなりそうですけど」
顔、首、胸、腹、臍、腿、足、爪先・・・
支配をするように来須の乾いた身体を唾液で潤していく・・・
狂気の愛情とでも、言ってしまえばいいか…
狂っている、と来須は思った。
自分も、西島も、この空間も、世界も
「課長、愛してます」
「……ん」
甘く深いキスの味は自分と西島の唾液と、あのアイスの毒の匂いがした。
「俺がずっと、愛してあげますよ……」
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